生活インフラ整備/対応シミュレーション〜35年の時を経て新たな利活用創造で再提案〜

2013年11月28日 筑波学院大学教授 木下知己

組合せ最適化探索で経世済民モデルを具現化

35年前に商業施設立地検討のモデル「小売店立地計画の新しい考え方」を開発し、適用実績では好結果を残してきた。その後モデル運用の社会環境は様変わり、ツールはIT(情報技術)の進展でオープンデータの活用、ビッグデータによる検証、クラウドコンピューティングによるシミュレーションへと画期的な進化を遂げてきている。

生活インフラ整備/対応

  1. 現在検討対象は商業施設にとどまらず生活インフラ全般に適用されている。生活インフラは市民が生活に必要とする市区町村役場出張所、児童幼保育施設、公園運動体育施設、学校、病院診療所、集会所公民館、郵便局、銀行、スーパー・コンビニやドラッグストア等各種小売店、鉄道道路バス等駅ICバス停、高齢者福祉老健施設、防災避難拠点・備蓄基地等のインフラである。
  2. 近年の生活インフラ整備/対応は、生活者主権重視が当たり前で生活者と生活インフラの繋がり結び付きに必然性求め、さらに環境・エネルギーへの配慮が原則である。生活インフラは多様化し官民の境界が無くなり役割分担上の逆転も起こりつつあり、幅広いサービス施設の立地配置と適正容量が期待されるようになってきている。数多い施設で生活者主導の傾向が見られる。

利活用最前線

  • 平常時整備: 平常時は生活インフラの新設、移転、廃止、統合、集約等
  • 非常時対応: 非常時は居・在住者の避難、移動、および防災備品の調達、移送等
の有効なツールとして活躍。

シミュレーション実際

1.初期設定
  • 生活インフラ需要データ → 居・在住者人口分布
  • 生活インフラ供給データ → 既存・新規・代替・域外等施設の地点と定員容量
  • 移動・交通時間距離データ → 供用道路、移動・交通手段と道路交通ネットワーク網
2.結果事例
  • 生活インフラ種類と立地点別 → 圏域(出向者地区)と需要(人数)と効率(人数/定員容量)
  • 居・在住者出向先別 → 生活インフラ種類別最短施設と非常時避難拠点

生活インフラ整備/対応とIT

生活インフラの整備と利活用は平常時及び非常時において、ITがさらに生活インフラのサービス享受で格差を拡げ、多種多様でレベルもまちまちになり、 これがひいては市民生活の安心安全や財産価値低下、最悪究極の生命の危険に見舞われることにもなりかねない。生命財産は生活インフラでITにより格差拡大が持たらされる時代到来。
  • 生活インフラは単独に存在していても価値を見出すことはできない。利活用されることによって恩恵を受けた者に存在意義と価値を持たらしてくれる。
  • 常時、生活インフラを取り巻く環境は変動しており最新情報は欠かせない。特に災害時は状況が時々刻々変化するため、タイムリーなサービスのみ有効でまさしく最新情報しか頼りにならない。
  • 近隣の生活インフラなら手軽にいつでも利活用できるつもりでいたら、時として周辺の道路網が渋滞や遮断で到達困難になったり、いち早く情報入手検討できた予想だにしない人達に大挙して押し掛けられ収容人員超えて埋められてしまい、近隣住民は後塵を拝することになって門前払いを余儀なくされることにもなったりする。
  • 今や普段発信される恒常的情報だけを頼りに生活していたら、せっかく近くにあって便利な生活インフラの優越重宝な便益が損なわれることになる。
  • つまり生活インフラの便益享受は、恒常的で可視化情報だけでなくIT駆使しての付加価値情報次第で、効果と達成感そして満足度が左右されることになりつつあり、ひいては生命財産の安全確保に繋がっていくこともあながち否定できない事実となってきている。
  • 生活インフラ整備/対応シミュレーションは、地域全体生活者全員での便益享受向上を可能とし、実現に向けてITが果たす役割は重要な鍵を握っている。
生活インフラは従来のハードな施設群に加え、オープンデータ・ビッグデータ・シミュレーション等のソフト含むIT関連データやツールとグッズ類のサポートにより、シビアなサービスの機能充実が期待できよう。

シミュレーション進化

  1. 35年前に開発したモデルは消費者分布と道路交通事情ベースで商業施設の立地配置と規模を検討するもので、特に人がより近い立地の施設に集まる「考え方」はその後定着普及し、立地戦略立案では基本的コンセプトとして利用されてきた。そして今日に至っては、他の生活インフラがそこへ当然の如く存立する様相をも見られる。
  2. オープンデータは生活インフラのデータ蓄積多大でモデル操作の事前準備を軽減してくれ、シミュレーションを手軽容易なツールへと導いてくれるため利活用の範囲を拡げてくれている。更に新たな可能性の出現も秘めている。例えば、瞬時の防災避難場所移動や備蓄品移送決断への適用等が挙げられる。
  3. ビッグデータは日々の社会活動がリアルに観察されているデータのため、このデータ活用は現実との検証において基本的な実証データとなり、シミュレーション結果と検証が一体となった運用を可能としている。
  4. シミュレーションはクラウドか自前コンピューティングで、最初にオープンデータからのデータを用い生活インフラの立地配置と容量を評価する。続いて結果をビッグデータからのリアルな実態データで検証する。以上を繰り返し実行することになる。

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引用文献

  1. 小売店立地計画の新しい考え方」日本オペレーションズ・リサーチ学会「オペレーションズ・リサーチ」(1979年5月)
  2. 流通システムの合理化に関する定量的分析・評価」日本経済新聞社「消費と流通」(1983年4月)
  3. 「生活大国」日本へのグランド・デザイン」日本総合研究所「Japan Research Review」(1992年1月)
  4. 公共のマーケティング・ミックス」日本総合研究所「Japan Research Review」(1996年7月)
  5. 都市生活者ルネサンスとリバーシブル社会の到来」宇都宮共和大学論叢(2006年4月)
  6. 東日本大震災復興プラン『オープンカントリー特区による復興と発展をめざす, (2), (3)』つくばイノベーション研究(2011年4月・7月, 2012年3月)